【ブログ】不動産取引の手付解約とは?手付解約の要件や流れと注意点を解説
不動産売買契約が成立すると買主は売主に手付金を支払います。契約から一定の期間、買主は手付金を放棄すると取引を解約できます。
不動産取引を頻繁に経験する人は少ないため、取引を解約するルールや手付金の役割について、よく知る人は少ないのではないでしょうか。
本記事では手付金を支払い取引を解約する手付解約(手付解除ともいいます)の要件や流れ、注意点について解説します。
監修者情報 印南和行
(宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー(AFP)、一級建築士、一級建築施工管理技士、不動産コンサルティング技能士試験合格) 全国不動産売却安心取引協会 理事長。住宅専門チャンネル「YouTube不動産」が「わかりやすくて参考になる」と大好評でチャンネル登録者9万人、総視聴回数2100万回を超える(2023年5月1日現在)。著書に「プロ建築士が絶対しない家の建て方」(日本実業出版社)、「プロが教える資産価値を上げる住まいのメンテナンス」(週刊住宅新聞社)がある。
手付解約とは?
手付解約とは、一度成立した不動産取引において決済するまでの期間に取引を解約できる制度です。このとき、契約時に支払われた手付金がとても重要な意味を持ちます。手付金を解約手付として支払うことが、手付解約制度の条件となるからです。
買主は契約時に支払った手付金を放棄、つまり手付金の返還を求めず売主に譲渡すれば取引を解約できます。
一方、売主は支払われた手付金の2倍の金額を買主に改めて支払うことで、取引を解約できます。なお、手付解約は手付解除ともいいます。
解約手付とは、一般的には手付金と呼ばれますが、取引における解約権を認める目的で支払われるお金です。
手付金には3つの性格があります。一つは取引が成立した証拠としての「証約手付」、もう一つは、債務不履行があった場合の違約金としての「違約手付」としての性格です。そして支払金額の放棄により取引を解約できる「解約手付」の性格もあります。
手付解約は民法第557条第1項に規定されており、解約手付を支払ったときは、相手が契約の履行、つまり契約により発生した義務の実行に着手するまでの間は、定められた金額の支払いにより解約できることが定められています。
定められた金額とは、買主が取引を解約する場合はすでに支払った手付金の額です。売主の場合は、支払われた手付金の2倍の金額となります。
手付解約は、一度成立した取引の解約を可能にする制度です。しかし、解約するためには要件があり、また資金を失うリスクが伴うため、実施するには慎重に判断する必要があります。
手付解約の要件
それでは手付解約が成立するための要件について説明します。
手付金が解約手付であること
要件の1つ目は、売買契約時に支払われたお金が解約手付であることです。解約手付であるかどうかは、契約書や当事者の合意により定められます。
通常は契約書に、売買契約時に支払われた手付金が解約手付である旨の記載をおこない、解約手付であることを明確にして契約者間で合意します。
相手が契約履行に着手していないこと
2つ目の要件は、相手が契約履行に着手していないことです。
契約の履行とは契約により発生した義務を果たすことをいいます。客観的に義務を果たしていることが必要であり、準備段階では着手したことにはなりません。
たとえば、売主が物件引渡し前に所有権移転登記の手続きに着手したときは、履行に着手していると考えられるため、買主の取引を解約できる権利は消滅します。また、買主が売主に内金として購入代金の一部を支払った場合も、売主は解約ができなくなると考えられます。
ただし、履行の着手については明確な基準がなく、たびたび裁判での判断を仰ぐ事態も起きています。必要な場合は不動産会社や弁護士などの専門家への相談をおすすめします。
手付解約の流れ
ここからは、手付解約を具体的におこなう場合の流れを見ていきましょう。
1.不動産会社に相談する
手付解約をおこなう前にまず担当の不動産会社に相談しましょう。専門家である不動産会社に相談すれば、実際の取引が要件を満たしているかどうか確認してもらうことができ、加えて手続きや注意点も教えてもらえます。
また、取引を解約しようとすると、相手方との交渉が必要になることもあります。不動産会社は専門的な知識を持ち交渉にも慣れているため、交渉を代行してもらうことができます。
2.手付解約の意思表示をする
手付解約の意思表示は、書面でおこなうことが一般的です。書面には、契約当事者の氏名や住所、対象物件情報に加えて、手付解約することと手付金の放棄または倍返しをおこなうことの意思表示を明確に記載します
手付解約の意思表示は、相手方に到達したことにより効力が生じます。そのため意思表示は到達したことが確実にわかる内容証明郵便での送付が推奨されます。内容証明郵便であれば、郵便局が郵便物の送達日時や内容、宛名を証明してくれます。
3. 手付金の放棄または倍返しをする
買主が取引を解約する場合、すでに売主へ手付金が交付されているため、売主に支払った手付金を放棄し譲渡する意思があることを通知するのみで、支払い手続きは発生しません。
反対に売主が一度成立した取引を解約したい場合は、買主に手付解約の意思を通知した後、手付金の2倍の金額を買主に支払います。支払い方法は現金や口座振込、小切手など相手方が受け取りやすい方法を選択できます。
手付解約の注意点
手付解約をおこなう際には、以下の点に注意しましょう。
ローン特約がある場合
一度成立した不動産取引が解約となる理由の一つに、買主が金融機関のローン審査に通過できなかった場合があります。
不動産売買契約はローン審査の前に締結されるため、契約後にローンの審査結果が分かります。
通常は、売買契約にローン特約条項を記載して、ローン審査に通過できなかった場合、買主は手付金を取り戻して取引を解約できることが取り決められています。ローン特約条項の取り決めがあれば、買主はローンの審査に通らなかったことによる解約が、手持ち資金を失うことなく可能です。
不動産の取引は大きな金額が必要となることが多く、現金で購入するよりも金融機関からの融資を利用して取引するケースが多いでしょう。
ローンの審査に通過しないことは買主の落ち度ではなく、やむを得ない事情と考えられます。ローン特約があることにより、買主は融資を前提に、審査に通過できないときもペナルティをうけることなく安心して取引できます。
一方、ローン特約のない契約の場合、審査を通過できずに解約するとき、買主に手付金は返還されないため注意が必要です。
手付解約の期日を設定する場合
手付解約の期限は、契約履行の着手までの期間となります。しかし履行の着手とはわかりにくく、いつまで契約解除ができるのか理解しづらい特徴があります。法律上、手付解約ができる期間は定められていますが、契約の履行に着手したかどうかは専門的な判断が必要で、一般の人にはわかりづらいでしょう。
いつまで解約できるのか分からない状態では、解約する気がない契約者には不安な期間が続きます。そのため、個人間の取引では実務上は手付解約ができる期間を契約の当事者間で決めることが一般的です。
一般的には、資金決済までの期間が1か月以内の場合は契約から1週間~2週間、決済まで3か月程度期間がある場合は契約から1か月前後が手付解約の期日として設定されます。
期間を過ぎたら違約解除
手付解約期間を過ぎてからの解約は、手付金を放棄したとしても違約解約となります。違約解約の場合は、厳密には取引を履行できない契約者は解約する権利を持たず、取引相手方が解約する権利を有します。
解約の権利を有する人は、違約金の支払いにより取引を解約するか、契約の履行を求めるかの選択をすることになります。なお、違約金は通常契約時に金額の取り決めをおこないます。
まとめ
手付解約とは、買主が手付金を放棄すれば取引を解約できる制度です。売主が解約する場合は支払われた手付金の2倍の金額を支払う必要があります。
手付解約による解約は法律で認められた制度ですが、実施にあたり専門的な知識が必要となります。契約解除の前にまずは不動産会社への相談をおすすめします。
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